185頭と1人 生きる意味を探して

185頭と1人 生きる意味を探して 吉沢正巳

「どんな命にも意味があり、寿命まで生きるべきだ」

13年前東北を襲った大地震で原発から放射線が漏れ、福島県浪江町の住民全員に避難命令が出ました。
人は避難しましたが家畜はつれていけません。
国からは家畜に対して任意の殺処分指示が出ました。

現在「希望の牧場」を運営している吉沢正巳さん。
吉沢さんは原発事故で被ばくした肉牛たちを飼い続けています。全国から寄付を募り商品にならない牛に餌をやり、生かし続けています。

「畜産から全く外れてるんです。でも牛飼いなんですよ。牛に餌を与え世話をするのが牛飼いなんです。」

震災当時、330頭の肉牛を飼っていた吉沢さん。避難指示にもかかわらず、牛の世話をするためにとどまりました。そこで近くの牧場の牛たちの悲惨な姿-多くの牛が餓死-生き地獄そのものを見ました。
「牛たち、ごめんなさい」
人間は避難したのに牛たちを殺してしまった思いが残り、吉沢さんは他の牧場で生き残った牛も譲り受け、飼うことにしました。

「人間が命をどう扱うかということなんだ。人間はお前たち(牛)を見捨てないんだ。人間もお前たちの仲間なんだ。友達なんだ。俺は牛飼いだ。その牛飼いの仕事を生涯の仕事として最後まで続けるんだ。」

自らを「牛飼い」と呼び、一見無意味にも思える営みを続ける吉沢正巳さん。
果たして牛を生かすことに意味があるのか?

今でも吉沢さんを支えてくれるボランティアがいます。
東京から通っている会社員の男性は、牧場の牛たちを自分自身と重ねて考えたといいます。
「自分の身に当てはめて考えたら、『お前金稼げなかったら死んでいい』そんなのあり得ないでしょ。」とボランティアの会社員は言います。

吉沢さんは言います。
「牛も俺も生きてるじゃん。生きてることが意味あるんだよ。俺も人間で生きてるし、この牛たちも死んではいないんだよ。生きてる。あらゆる矛盾を抱えながら、矛盾とともに、生きるんですよ。」

命と向き合って生きる吉沢さんの日々を通じて「生きる意味」とは何なのかを考えさせられました。